亮太くん(仮名) 2001年生まれ ダウン症
カテゴリーの学習
● お買い物(3歳)
一緒にお買い物をすることで、タマネギ、大根、マグロにサンマといった名前を学び、さらに、八百屋さんで買ったタマネギや大根は野菜、肉屋さんで買った牛肉や豚肉は肉類、魚屋さんの鯛もひらめも魚類、というように、ただ単にばらばらの物だったものが、カテゴリー別に分類されるということを体験的に学んで行くことを期待しました。
商店街を選んだのは、お店のおばさんやおじさんとの人間関係がスーパーよりも濃いので、コミュニケーションの機会が増えるというのも狙いです。
商店街のもうひとのメリットは、位置関係が分かり易いことです。方向感覚が養われていきます。
保育園の帰りにできるだけ商店街に寄って買い物をする事にしました。 八百屋さん、果物屋さん、肉屋さん、魚屋さん、パン屋さん、とうふ屋さん。 ・子供は身体を動かしながらの方が良く覚える ・売場がしっかり別れている方が解りやすい のアドバイスに従って、スーパーではなく商店街を選択。 しばらくして、パン屋さんと魚屋の場所を覚えました。 パン屋さんは、その商店街の一番奥にあります。 保育園を出て、「パン買いにいこか?パン屋さんどこ?」というとそのまま、パン屋まで案内してくれます。 パン屋さんの中でのマナーもだいぶ身に付きました。 魚屋は商店街の真ん中辺り。 真っ直ぐではなく右に曲がる必要があります。 通り過ぎそうになった時は「お魚屋さんは右よ」と声をかけます。 八百屋では、“重い~”を実体験。 大根丸ごと1本。たまねぎ5個。じゃがいも5個。はちみつのビン2本。 大根を抱えながら嬉しそうに「おも~」と言う。 真っ白で大きくて重い大根。この時「大根」を覚えました。 さて、目的のカテゴリーのインプットですが、買い物をしてみて解った事。 パン屋とか魚屋に興味を持ち、店の場所もすぐに覚えたのは子供にとって解りやすいからなんですよね。 ・興味のある事から媒介を進める のアドバイスに従い、「パン」「魚」のカテゴリー名に付随する単体の名前を覚える事に挑戦。 スーパーの広告を切り抜いて作ったカードで、名前当てごっこをしています。 大好きなパンはすぐにマスターでき、カテゴリーとしてのパンも理解している模様。 お店の魚は切り身が多いので少し難しい。水族館がいいですね。 馴染むかどうかトライしてみようと軽い気持ちで始めたこの“お買い物”ですが、数回、商店街に通っただけですっかり子供のお気に入りとなりました。 多少の小雨ぐらいでは、お買い物を中止する事を子供が許してくれません。 それを見た果物屋さんのおばちゃん、「雨の日も毎日、しっかり歩いて偉いなぁ、と思って見ているのよ。」と声を掛けて下さいました。 毎回、みかんやぶどうのオマケを亮太に下さいます。最初は「小さいのにメガネかけて可愛そうねぇ」と言っていたおばちゃんですが、今では亮太と二人すっかり意気投合しています。
大小の比較
● 大きさを比較すること(年齢:3歳)
系統的比較は思考発達のための基礎となります。
最初の一歩として「大きさを比較する」という事について媒介を始めました。
まず最初は、サイズの違いを体験し、その体験を「大きい」「小さい」という言葉に結びつけます。
♪大きなたいこドーンドーン 小さなたいこトントントン♪ の歌に合わせて、たいこに見立てたカップやブロックをたたくという遊び、気に入ってくれました。 これで、どちらが大きいのか把握する力が確実になりました。 また、おやつを食べる時などにも、ワザと大きさを違えた二つを指し出し、どちらが欲しいか聞いてみます。 「大きい」と言う又は、大きいのサインを出させてから渡します。 食べるの大好きなAは、必ず大きい方を指すので「小さい」の練習はできない。。 大小のサインは、 ♪大きな栗の木の下で~ ♪小さな栗の木の下で~ で覚えました。
●同じ大きさのものをマッチングすること 1日目(3歳)
大きいものと小さいものとにグループ分けする練習。
「両親へのガイドライン」で紹介されていた事例、 「小さいスプーンはみんなこの引き出しに入れて下さい。大きなスプーンはみんなそっちの引き出しに入れて下さい。」 をやってみたのですが出来ません。 どこでひっかかっているのかと観察してみると、大小を区別してグループ化する事がすんなり解らないらしいのです。
●同じ大きさのものをマッチングすること 2日目(3歳)
1日目に出来なかった事を振り返り、何が出来て、何が出来ないのかを探求しました。
まず、グルーピング自体ができるかどうか確認する為に、既にある程度理解している形を区別してグループ化する作業をしてみました。 紙に、○、△、□を書いて床に置き、 積み木(それぞれ5個づつ用意)をマッチングさせ、 該当する紙の上に並べるというもの。 最初に、丸い積み木はここね、三角はここね、と手本を示すとすんなり全てを配る事ができ、「比較するものが何か」を理解していればグルーピ化はできる という事が解りました。 再度、スプーンの大小に取りかかりました。 まず、紙に「大」「小」と書き、準備体操。 「大」を見せながら、「大きい!」と叫びながら体全体で大きくノビ。 「小」を見せながら、「小さい」とささやきしゃがんで縮こまる。 じきに文字を覚えて、声をかけなくても動作をするようになりました。 そこで、また大小のスプーン3本づつを取り出し、紙の上に置くというのを形でやったのと同じ要領で進めようとしました。 最初に私が、1本づつ、それぞれ大小の紙の上に置いてみせました。 残りのスプーン(それぞれ2本づつ)を置いてとリクエストするが、スプーンをがちゃがちゃやって遊び出す始末。 最後まで、学習に集中力を戻す事ができませんでした。
●同じ大きさのものをマッチングすること 3日目(3歳)
二日目の学習でグループ分けはできる事がはっきりしたので、「同じ大きさのものをマッチングする」という課題をクリアしやすいように、ヒントを用意。少し補助をする事で、成功の体験を目指します。
紙に大小と文字を書くのではなく、スプーンの型を紙に書き取ったものをそれぞれ用意しました。 まず「大きいスプーンはこっちね。パチン」と見本を見せます。 型はめは子供の好きな遊びです。 すぐにどうやれば良いかを理解し、大小3本づつ、無事に配る事ができました。 次ぎに、「大」「小」と書いた紙を取り出し、「今度は、少し難しいよ。大きいスプーンはこっちに置いて」と見本を見せます。 少し迷いながらも、3本全て、グループ化する事が出来ました。 新しい課題にトライする時は、子供が出来そうな(得意そうな)事を折り込んで行う事からスタートする事が非常に大事だと実感しました。
●大小の比較。 落ち葉拾い(3歳)
机上の学習で得た新たな基礎概念を定着するには、日々の生活の中での体験の繰り返し、積み重ねが大事であると考ます。子供が感動と興味を持って取り組める野外学習は、理想的な学習の場だと思いました。
大きな公園で、素足でたくさん走り回った後、落ち葉拾いをしました。
「おおっきいね。おててみたいな形だね。うちわにもなるよ」
「この葉っぱと同じ形の葉っぱ、取ってきて」
「小さい葉っぱを集めようか?どっちが小さいかな?」
「奇麗な黄色だね。ここにもあるね。」
お友達と2人で遊んだ落ち葉拾いでしたが、親の語りかけの意味が十分に解らないなりに、競って葉っぱを集めてくれました。
こうした遊びを重ねていきたいと思いました。
縦と横の比較
●媒介とは、詰め込むのではなく『考える方法』を伝えること・・・(4歳)
私が媒介という親の役割に新しい展望を得たきっかけは「い」と「こ」の比較をめぐる親子の交流でした。 この2つの文字を混同する子供に対しては、『ただ間違いを指摘するのではなく、「い」と「こ」のどこがどう違うのかを子供に発見させ、判断させて、子供が一連の思考プロセスを身につけてゆくように導いていく事こそ重要であり、 『媒介とは、媒介を受ける者に“考える方法”を伝える事である』ということを実体験しました。縦横の方向の違い等、基礎概念による比較を通じて子供の認知構造が一段積み上げられた瞬間を私は見ることができたのです。
文字に興味を持ち始め少しづつひらがなを読み出した亮太。 しかし似通った形の文字は混同してしまう。 例えば「こ」は、何度正しい読み方を教えても「い」と読みます。 母 :ぐるりと回して「ホントだ『い』だねぇ。」 亮太:「い!」(←得意げ) 母 :「・・・。」(←さて、どう媒介しよう) この件に関して、 「フォイヤーシュタイン先生は、保存の獲得は、比較の訓練で促進される、と書いておられます。保存の獲得は、子供の発達の重要な指標とされていますから、「い」と「こ」のちがいの媒介を目標にして、上下・左右・たて・よこという方向感覚と、長い短いの比較を、「い」と「こ」をは なれて十分媒介してみて、それから、「い」と「こ」にもどってみてはどうでしょうか・・・そこから大切な保存の獲得に至る道もさらに開かれるかもしれません」 というアドバイスを頂きました。 早速、縦と横についてどれぐらい理解しているか確認してみました。すると何となくは解っているけれど明確ではない、自分の道具として縦横という概念を使いこなしてはいない、という状態でした。 そこで、改めて縦と横について媒介を始めてみました。 「動詞を使った方が亮太にはインプットしやすい」という経験から積み木を使って「ピッ!立てる!」「パタン、横にする!」という遊びをしてみました。 この遊びを気に入った様子だったので、生活の中でも「ピッ!立って!」「ごろん、横になって!」という具合に意識して使うようにしました。 また「たて棒~よこ棒~♪」と歌いながらお絵かきしたりしました。 数日経った頃、再び「い」と「こ」について、子供と一緒に比較しながら縦横の確認をし、その上で読み方を教えたところ、あっさりと一回で理解しました。それ以来、例え言い間違える事があっても、自分で正すようになりました。そういう時、数秒、文字を見比べる瞳に「比較して判断している」という行為が観察できます。 まだ文字を教えるつもりもなかった私は、子供が自発的に覚えたものであるけれど、間違っていると指摘するのみでした。同時に、どこがどう違うのか説明の方法を持たなかったのです。なぜなら、比較する為の『概念』を亮太が一つも確実には身につけていない、そう無意識に判断していたからだと思います。 教える相手が日本語を学ぶ外国人の大人であれば亮太と同じ様な間違いをした時、自然に文字の特徴を比較して説明しただろうと思います。それは亮太にしても有効な説明である筈。 せっかくの媒介のチャンスを見逃してはいけないな、と思いました。 上下左右をよく見れば、「い」は寝かせても「こ」にならず、「こ」は立たせても「い」にならないことを、親も発見したのですが、これが、『保存』への入り口だとか・・・