七生ちゃん

七生ちゃん
1994年生まれ・女の子
ダウン症

 

基礎概念の学習 

●「高い」「低い」の媒介と超越性(4歳)

最初は大きさの違う積み木など、シンプルな事例で高低の比較を学ぶ。
そののち学習用に用意されたもの以外の身近な事例に関しても、比較行動を応用していく。
目標としては比較によって分析された情報を、自分の行動に生かしていくこと。

食後テーブルにいる時間を利用して、積み木で基礎概念である高低を学ぶ事にしました。
最初は同じ円柱で長さの違うものを二本用意し、並べて寝かせて長短を確認しました。
その後それを立てて、高低をいっしょに声に出して言ってみました。

次に二本以上の円柱を立て、一番高いもの一番低いものを確認しました。
高さ順に並べて見せました。すると七生は「階段!」と言いました。
その後、円柱以外にも三角柱・四角柱など形の違うものを用意し、形は違っても「高さ」という概念で高低を比較する事を媒介しました。

結局媒介学習はここで終わってしまいましたが、ある日幼稚園から帰宅する途中、私(長身です)を見上げ七生は「お母さんは 背が 高い」と言いました。
積み木で学習した高低の概念を、身長に対して初めて応用したのです。
これを「超越」というのかと、震えるような気持ちになりました。
そして私は、「七生ちゃんは 背が 低いね」と付け加えました。

その後、彼女の言語の中に形容する言葉が含まれるようになりました。
比較するという認知機能が働き始めたのだと思います。
以前であれば「お母さん ジュース ちょうだい」であったところが、
「お母さん 甘い みかん ジュース ちょうだい」となりました。

 

IE(教材)の実践 

苦手の克服(5歳)

トレーニングを通して、対象児の機能不全を克服する。
また克服できたという経験が、他の苦手な分野の克服に対してプラスに働くという超越性が見られた。

七生はまだ言葉が不明瞭であり、思うように話すことができません。
そこでトレーニングの最初はIE-Basicの「点群の組織化」(以下ODと略す)を選択しました。

しかしODをするには、最低限エンピツで書く能力が必要です。七生は指の力が弱く、エンピツをしっかり握ることはできませんでした。

そこでスケッチブックに点を書き、その間を太いホワイトボードマーカー等を用いてつなぐ練習から始めました。このエンピツに至るまでの過程に半年を要しました。

元々書くことに苦手意識の強かった七生は、最初の頃はできないことが悔しく、また手が痛いと言っては毎日泣きました。しかし、いつしか朝食後の勉強の時間を楽しみにするようになり、いつもより遅くなって幼稚園の時間があるので「今日はできないよ」というと、逆に残念がって泣いてしまうくらいトレーニングを楽しみにするようになっていました。

トレーニングはその後順調に進み、ODに関しては媒介を受ければ課題を簡単に解けるようになりました。

苦手な事が得意なこと、楽しいことに変化していったのです。
七生の幼稚園で参観日がありました。毎年、丸太渡りなど同じ課題を父兄の前で発表します。IE開始前の去年は運動が苦手な七生は、両脇を二人の先生に支えてもらっても自分から前に進めず、殆ど先生に頼りきりで長い時間をかけてようやく最後まで行き着いていました。

しかし今年は片手は先生に持っていただいていましたが、明らかに自分から前に進もうというチャレンジする様子がうかがえました。

途中落ちてしまっても、もう一度よじ登り最後まで諦めませんでした。

この粘り強い態度を見たとき、IEを通して自分が苦手とすることに関しても気持ちを奮い立たせてやり遂げることができる、精神的な強さが身についたと感じました。

IEは認知機能を伸ばすだけでなく、「できない」と逃げ腰になっている子供を前向きに変える力もあると思いました。そして成功の体験は、次の扉を開いてくれるでしょう。

衝動性のコントロール(5歳)

IE教材は衝動性を抑えなければ、確実に解くことはできない。
課題を通して子供は無意識に自分の衝動性のコントロールの仕方を身に付けていく。

歌や音楽が大変好きな七生は、曲が聞こえると自分の衝動を抑えられず、去年の参観日ではクラスで他の子供達が着席していても、おかまいなしに一人だけ飛び跳ねていました。

今年はどうでしょう!
クラスメイトと同調し、着席して歌を歌い、「船長さんの命令」などのゲームもしっかり理解して楽しみ、落ち着いた態度を身に付けていました。
七生の大きな問題だった「衝動性」をコントロールできつつあることを感じました。
ODは最初は見分けやすい課題からスタートします。しかし、徐々に複雑な課題に変わっていきます。直感だけでは解くことはできません。図形を見極める冷静な思考が必要になってきます。

まさしく衝動性を抑えなければ先には進めません。

OD課題が育てる大切な認知機能のひとつに「ひとつ、またはそれ以上の情報をもとにして考える能力」があります。たとえば、ワークシートの上には、四角や三角をつくる点々が、一見しただけではばらばらに散らばっています。この点の中から、お手本と同じ形の三角や四角を作る点を探さなければなりません。

最初のうち七生は、三角を作るのに、点が3つ見つかったら、お手本の形とは関係なく、ともかく三角を描いてしまいました。この三角は、実は、直角二等辺三角形なのです。3つの点→三角形という単一の情報だけでは解決しない課題です。

今では、見つかった3つの点を、直角という言葉も、二等辺という言葉も分らないまま、七生はじっくりお手本と見比べて、角度と辺の長さを正確に捉えて描けるようになりました。

そして、三角や四角は向きを変えて出てきます。これは、ピアジェがいう「保存」という機能を育てるための課題の仕組みです。「保存」はいろんな論理を操るための大切な出発点だそうですが、七生は点の数や辺の長さや角度の開きをお手本と見比べながら、向きの違いがあっても間違えないようになりました。

はっきりと物を見て、順序ただしく課題の中の点のなかから必要な点を見つけ出していけるような、落ち着きが出てきました。

ODを一つずつ解きながら、自分の衝動性を抑えることを七生は覚えつつあります。そしてそのコントロールは教材を離れて、無意識のうちに日常生活の場面でも発揮されるようになったのだと思います。

現実の世界は様々な複雑な情報が混在しています。衝動性を抑え、冷静に状況の判断をしなければなりません。IEに取り組むことで、衝動性をコントロールし、認知機能を働かせ、やがては、より高度な論理操作も身に付けることが、可能になるのではないでしょうか。
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